内部通報制度は、企業の健全な運営を支える重要な仕組みです。しかし、制度の存在だけでは不十分で、その有効性を確保するために適切な教育・研修が不可欠です。そこで今回は、「制度についての教育・研修」を解説します。
教育・研修の場では、最初に会社として制度の理念を伝えることが良いと思います。会社は内部通報制度に何を期待して、制度によって会社をどのようにしたいと考えているのか、ということです。内部通報制度の役割は、将来大問題になりかねない不祥事の芽を早期に発見し、対処することにあります。すなわち、会社を健全に発展させるための必要な手段であり、会社として極めて重視しているということを伝えなければなりません。この部分をしっかり従業員に理解してもらわないと、制度にそぐわない通報や、また必要な通報がされないことになりかねません。以前にお話しした「リーダーシップ」にもつながりますが、経営者自らの言葉でメッセージを伝えることが有効でしょう。
続いて、「制度」についての説明をしましょう。まず、従業員が通報窓口の存在を知り、利用方法を理解することは基本です。掲示やお知らせメールによる周知等、さまざまな手段がありますが、かならずしも従業員に伝わっているとは限りません。制度運営者側では伝達したつもりでも、後日、従業員アンケート等の結果によると、従業員の一定数が制度の存在を知らないと回答するケースがしばしば見受けられます。従って、制度利用対象者全員にあまねく伝達するためには、掲示などによる周知手段に加えて、教育・研修の場において、しっかり意識付けさせるところまで伝達することが肝要です。また、これらは定期的に行う必要があるでしょう。人間はとかく忘れやすいですし、従業員も入れ替わるからです。特に新入社員には確実に周知する必要があるでしょう。
従業員などの制度利用対象者に周知すべき内容は、通報窓口と利用方法の他にもあります。例えば、通報の結果どのようなプロセスを経て対処されるかについてです。通報者にとって、通報後確実に対処してもらえるか否かは関心のあるところですから、どのような手順で対処に至るのかを可能な限り伝えるようにしましょう。受付可能な通用する内容についても説明が必要です。例えば誹謗中傷や、虚偽事項の通報は、場合によっては懲戒対象になり得ることを説明することで無益な通報を減らすことができるでしょう。
続いて最も大事な周知事項である「通報者保護」についてお話しします。制度が有効に機能することは、企業不祥事につながる事案をいち早く通報してもらうことですが、そのためには、利用者が安心して通報できる制度である必要があります。すなわち、通報者が不利益を被らないことが担保されている制度であることを、確実に利用者に伝える必要があります。いくつかポイントを挙げてみましょう。
最初は、「通報者の秘密の保持」です。当然のことですが、通報者が誰であるかについては、必要最小限の関係者以外、知ることができない仕組みになっていることを、従業員に伝えましょう。また、匿名による通報も可能であることも明確にしておきます。こうしたことは、通報者が恐怖や報復のリスクなく不正を報告できるようにするために重要です。
通報者に対するあらゆる形態の報復行為(職場でのいじめ、昇進の妨害、給与の減少、解雇等)が厳しく禁止されていることを強調しましょう。これは、従業員が安心して不正を報告できる環境を作るために必須です。また、報復行為に至った場合の懲戒処分などに言及することは、通報される側に対する牽制の意味としても有効でしょう。
先に述べたとおり、通報が受け付けられた後のプロセス、すなわち、通報の評価、調査の実施、結果のフィードバックなどについても説明します。プロセスの進行について適切な情報を提供することで、制度利用者に対する透明性と信頼性の確保につながると考えられます。
そして、「支援体制の仕組み」についても、伝えましょう。通報窓口以外の社内相談部門の支援や通報者が必要に応じて利用できるサポートリソース(カウンセラー、外部弁護士等)など、全面的にバックアップ体制が備わっていることを従業員が認識することで、より安心感が高まることが期待できます。
今回は、教育研修について周知すべきポイントのいくつかをお話しました。繰り返しになりますが、周知の取り組みは定期的な実践が必要になります。仕り組み化(計画)により確実な実行が期待されます。次回(6回目)は、消費者庁から公表されている「法令指針」について解説する予定です。引き続きご一読いただければ幸いです。よろしくお願いします。